心を尽くして

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この時代の人間に未来を知られては不味いのだ。 「もう!寝てへんとあかんやろ!ほら、お粥作ってもろたから食べて。 」 為三郎は部屋へ入ってくると、粥を乗せた盆を千香に手渡す。 「有難う。いただきます。....ん、美味しい。 」 粥はとても優しい味で、千香の心と体を芯から温めてくれた。完食すると、手を合わせて御挨拶。 「ご馳走様です。 」 「ええ食べっぷりやね。食欲はあるみたいや。あとは早う薬飲んで、寝とき。 」 「うん。ありがとう。 」 薬を飲んで蒲団を被ると、直ぐに眠気が襲って来た。 「おや、すみ...。ほんとに、ありがとね。 」 「ええの。気にせいで...って、もう寝てもうたわ。 」 為三郎は千香の握っていた手拭いを水に浸して絞ると、額に乗せる。 「姉ちゃん、いつも気丈に振る舞うから組の人たちが居なくって、力が抜けたんやろうな。働き者そやしな。 」 千香の安らかな寝顔を見ていると、余計にそう思えてきて、 「早う、治してまた遊んでや。 」 為三郎は空になった器を盆に乗せると、部屋を出た。 また目が覚めると、今度は朝で。少し寝過ぎたかもしれない。蒲団から出て、軽くストレッチする。朝日を浴びようと廊下へ出ると、雪が降ってきた。 「雪だ...。朝日は浴びれなくて寒いけど、綺麗だからいいかな。 」 風呂に入ろうかと考えたが、今の時間から沸かすのは面倒だと思い、手拭いを湿らせ体を拭き、着物に着替える。 ...勿論、夜にはきちんと入るが。 しかし、夜まで特にこれと言ってすることもない。 そうだ、石鹸でも作ろう。確か米糠で作れたはずだ。八木の家にはお世話になった代わりに、それを持って行こう。 思い立ったが吉日、と言って、千香は早速材料を揃えて、石鹸作りを始めた。 鍋に水を入れ、沸騰させて、次に寒天を溶かし、数分かき混ぜ続ける。本来なら重曹を使ったりするのだが、寒天でもしっかり固まるから大丈夫だろう。 米糠を入れ溶かして火から下ろし、器に移す。 「よし、あとは冷やせば完成。無添加だし、お肌にもいいし、何よりこの時代に石鹸は珍しいもんね! 」 石鹸が固まるまでの時間、ついでに屯所の掃除を済ませる。 ありゃ。一日掃除しないだけでこんなに埃溜まるもんなのか。 千香は屯所内の埃の溜まりの早さに驚いた。
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