心を尽くして

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「今年は沢山の人が死んでしまう年だ。私がこの時代に来たのは、きっと新選組を救うため。お梅ちゃんと芹沢さんは助けられなかったけど、今度こそは絶対助けなくちゃ。 」 殆ど新選組に関することは頭に入っていたが、この間の間者のことを忘れていたため、再度読み返す。半分まで読んだところで、障子が空いた。 「千香。風呂空いたから入りなよ。 」 千香は慌てて本をしまう。 「ありがとう。でも、断りもなく女の子の部屋の扉を開けるのは、ちょっと... 」 「あ。ごめん。ここ男ばっかりだから、忘れてた。 」 藤堂は後ろ手で障子を閉めながら、部屋へ入って来て千香の隣に腰を下ろす。 「寂しかった? 」 藤堂は千香を愛おしそうに見つめた。 「うん。ここは一人でいるには広過ぎるよ。 」 「俺も、千香と会えなくて寂しかった。 」 千香の肩に藤堂が体を寄せる。 「でも、皆帰ってきたからもう大丈夫。 」 千香は安らかな表情を浮かべる。隣の藤堂の体温を肩から感じ、ふわふわと優しい気持ちになっていく。 「お風呂、入ってくるね。 」 千香は手拭いと寝巻きを手に持ち、立ち上がる。それに藤堂が名残惜しそうな視線を送って。 「お風呂から上がったら、また話そう。待ってて。 」 藤堂はこくん、と頷いた。部屋を出て、千香は手早く風呂を済ませた。千香も藤堂と一緒の時間を大切にしたいと思ったからだ。じきに藤堂は新選組を離れ、御陵衛士に入る。御陵衛士は新選組と袂を分かった間柄ということもあり、次第に関係を悪くして、最後には争いを始める。その最中に、藤堂は命を落としたと言われている。もし、助けられなかったとしたら。きっと一生後悔が残る。部屋へ戻ると、待ち疲れたのか藤堂は寝てしまっていた。 「疲れてるのに、待たせちゃってごめんね。 」 藤堂へ蒲団を掛けると、千香も蒲団を敷いて横になった。同じ蒲団で寝るというのは流石に戸惑ったが、あてがわれている蒲団は生憎一組しかなく。千香は藤堂の寝顔を見て、クスリと笑う。 「なんか子供みたい。...おやすみ。 」 明日の朝、この有様を見られたら皆から冷やかされるだろうか、などと考えたところで眠りについた。
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