心を尽くして

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翌朝、千香が目を覚ますと隣に藤堂の寝顔が見えた。 「おはよう。平助。 」 朝餉の支度をしようと、蒲団から出て身支度を整える。ふと、蒲団から放り出された手を見ると、千香が渡した組紐が付けてあって。千香は嬉しさで、目を細めた。放り出された手を蒲団の中に入れ、寝巻きから着物に袖を通そうとした時、藤堂が目を覚ました。 「...あれ。ここ...千香の部屋?えええ!俺何処で寝てんだよ!しかも、同じ蒲団!?って、千香!?何で襦袢姿なの! 」 藤堂は自分の置かれている状況に混乱している様子だった。 「平助ね、昨日、私がお風呂入ってる間に、寝ちゃったの。蒲団、一つしかなかったから一緒に寝るしか無くて。ごめんね。 」 半身を起こした藤堂へ、千香の部屋にいる経緯を話す。すると、藤堂は記憶が蘇って来た様で、ああと納得した様に見えた。 「あ、あのさ。早く着物着て欲しいな。言い難いんだけど、透けてる、から。 」 藤堂の言葉に、千香はかあっと顔を赤らめる。 「は、はは早く言ってよ!平助の馬鹿! 」 焦って着物を手にすると、背後から藤堂に抱き締められ。 「警戒心無さ過ぎだから。俺以外の男が見たら、多分襲うよ?こんなんだと心配になるなあ。 」 背中から藤堂の息遣いを感じ。千香はますます顔を赤らめていく。 「ごめん...。えと、着替えたいから離して? 」 千香は腕に回された手を解こうと、説得する。 「駄目。ようく、反省するまでこのまま。 」 藤堂は悪戯っぽく言う。しかし、後ろから感じる鼓動は早くなっていて、千香は、もうどうしようもなく、キュンとした。藤堂もドキドキしてるんだ、と少し安心もして。すると、急にガラリと障子が開いた。甘いムードが一瞬で消え去り、二人ともぎょっとして、障子の方を見る。 「...朝っぱらから何やってんだ。隊の風紀が乱れるだろうが。これだから女は面倒なんだよ。 」 土方は、はあ。と溜め息をつきながら、やれやれ、と言った風な顔をする。 「土方さん。それは男尊女卑です!許せません! 」 千香は近くに置いてあった羽織を肩から掛けて、立ち上がる。 「はあ?だんそんじょひ?何だそれは。 」 「男尊女卑とは、男性を敬い女性を下に見ることです!同じ人間なのに、女は駄目だみたいな言い方は可笑しいです! 」
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