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「女が男に従うのは当たり前だろうが。何言ってんだよ。 」
土方の言葉に、千香は思い出す。この時代は、これが普通だ、と。だから、幾ら言っても無駄だと悟る。
「...もう、この話は止しましょう。それで、此処へ来たのは何か用があるんでしょう? 」
話を変えるべく、千香は土方に尋ねる。まだ朝も早い様に見えるのに、何だと言うのだろう。
「藤堂に用があって来た。昨日の夜、此処へ入っていくのを見たきり、出て来る気配が無かったからな。 」
「俺に、ですか? 」
藤堂は未だ平常心を取り戻せていない様で、発した声が小さかった。
「ああ。山南さんにお前を呼ぶ様にと、言付けされてな。...ところで、森宮はいつまでそんな格好しているつもりだ? 」
「そう思うんなら、出て行っていただけますか。土方さんが居たんじゃ、着替えられません。 」
千香はムスッと怒った顔をして、土方を追い出そうとする。
「誰かさんと違って、俺はお前の着替えを見たところでどうもしねえが、出てってやろう。 」
フ、と意地の悪そうな笑みを浮かべて、土方は部屋を出て行った。足音が遠ざかる頃合いを見計らって、千香が愚痴を零す。
「土方さん、よくあんなので女の子から恋文貰えるわね。あの素っ気ないのがいいって言うのかな。 」
千香は土方が去って行った方を見て呆れた。藤堂も、溜め息混じりに千香に賛同して。
「本当。もっと女子には優しくないといけないと思うよ。...さてと、俺は山南さんのところに行って来るね。また、朝餉で。 」
「うん。 」
藤堂が部屋を出た後、千香は着物を着て厨房へ向かう。ようやく日常が戻って来た、と感じられた一時だった。
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