心を尽くして

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「新年の挨拶の文について話してたの。山南さんが江戸の小島鹿之助さんへ書いたって聞いて。私も出そうかなって思って。 」 藤堂は千香の言葉に疑問を浮かべた。 「でも、千香この時代じゃ出す相手居ないんじゃない?あまり街にも出れないし、友達も出来にくいんじゃ...。 」 「平助酷いな。私にだってそれくらいの友達いるよ! 」 千香はぷうっと頬を膨らませる。 それに藤堂は笑いながら返して。 「ごめんごめん。千香になら友達くらい居るよね。だって、明るくて真っ直ぐで、優しいから。 」 「ほ、褒めたって、何にも出ないよ! 」 藤堂の言葉に頬を染め、箒を動かす。 「お二人共、朝からお熱いことで。 」 スタスタと沖田が歩いて来たかと思うと、冷やかし始めた。いつものことなので、最早二人共慣れつつあったが。 だから、別段反応も返さず受け流すに限るということを悟った訳で。 「ああ。沖田さん。今新年の挨拶の文の話をしてたんです。山南さんが江戸の小島鹿之助さんに出すそうで。 」 「そうですか。小島さんに。それで?森宮さんはその文の何に騒いで居たんです? 」 「山南さんに、私には文を出す相手が居ないって話したら、文が来ているって教えてくれたんです。その返事を少し遅めの新年の挨拶にしてはどうかって。 」 すると、沖田は何か勘繰る様な顔をして言った。 「その文は、森宮さんの知り合いからの物ですか。 」 「はい。多分...。 」 沖田の言わんとしているところを理解できない千香は、首を傾げた。 「多分...か。もしかしたら、恋文かもしれない。 」 「ええ!?それ本当か? 」 沖田が、ニヤリ、と口角を上げた。 それに気付かず、いの一番に反応を示したのは藤堂。恋仲である千香が他の男に想われるのは、良い気持ちはしない。自分一人だけで十分だ。と思っている様で。 「ないない!それは蓼食う虫も好き好きって言うやつですよ。 」 千香は顔の前で、手のひらをブンブンと振り否定する。 「いーや!千香は、他人を警戒しないところがあるから心配だ!その文、断じて読ませないからな! 」 「ええ!!本当に只の友達から来てたらどうするのよ!返事出さないと相手に悪いでしょ! 」 千香は沖田の方へ向く。
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