心を尽くして

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自室へと帰り、墨を用意すると、新選組の良いところを書き出していく。 「これ、私が書いたんじゃなくて、新選組のファンが書いたことにすれば、もっと皆喜んでくれるかも。幸い、まだ誰にも私の字は見られたことないし、大丈夫でしょ。 」 仕上げに近藤らの似顔絵も添える。 「完璧!ええと、京の街の人が書いたことにしたらいいかな。門のところに置いてこよう! 」 千香は手紙を懐にしまい、廊下へ出ると、周りに人が居ないことを確認して外へと出る。そして、屯所の門の前に手紙を置くとそそくさと部屋へと戻り。 「喜んでくれるかなあ。 」 千香がふふふとにやけていると、すぱん!と障子が開いた。 「これ、森宮さんが書いた物ですね? 」 え“バレてる!?と心で叫びながら声の方へ振り向くと、にこにこと微笑んでいる沖田がいた。 「な、何で分かったんですか...。 」 「内容ですよ。やけに内部に居ないと分からないことばかり書いてあるから。これしきの文を見破るくらい容易いことです。伊達に新選組やってないですよ。 」 沖田の笑顔ながらに淡々と続ける様子を見て、千香はガックリと項垂れた。 「うう。甘く見てました。流石新選組ですね...。 」 「でも。 」 沖田が千香の肩を掴んで。 「私たちを元気付けようとしてくれたんですよね?その心遣いはとても有り難いと思いましたよ。 」 千香が顔を上げると、至近距離に沖田の顔が見え、かあっと顔を赤く染める。 「お、沖田さん。近いです...。 」 目を逸らしながら、消え入るように声が小さくなり。 「御免。」 沖田がパッと千香から手を離すと、千香の様子にケラケラと笑い。 「まあ、皆は森宮さんが書いた物でも喜ぶと思いますよ。誰だって褒められて嫌な気分はしませんから。折角ですからこの文は、隊士たちに見せておきますね。 」 沖田は千香の手紙をヒラヒラとさせて、去り際に告げる。 「は、はい。お願いします! 」 閉まった障子を見つめながら、首を傾げた。抜かりなく、遂行したはずなのに。どうして?手紙の内容もそんなに怪しまれるような内容は書いて居ないはずなのに。 「沖田さんって凄いんだなあ。嘘吐いても見透かされちゃいそうな感じする。 」 千香はしみじみと呟いた。
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