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時々聞こえてくる怒声や叫び声に肩を震わせつつ、どうか何事も起こらないでほしいと手を胸の前でキュッと握った。
治療室を準備してから、何時間経っただろうか。そっと戸を開けて外を覗くと既に街が静まり返り、辺りに人は歩いていない様に見えたはずが。
突然、ぬっと黒い影が差して。
「だ、誰? 」
恐る恐る顔を上げ、その影の主を見ると、血だらけでただその場に立ち尽くしている男が居た。
その凄惨さに思わず息を呑んだとき。
ドサリ、と男が倒れた。
「え!だ、大丈夫ですか!?ええと、一先ずRICEだ! 」
千香は慌てて男の意識の有無を確認した。息はまだある。身元が分からない人間でも、目の前で倒れていれば助けるしかない。
「意識が無い!まずは!止血しないと!よいしょ! 」
男の体は千香の力だけでは到底持ち上げられないため、怪我をしているところに触れない様にしながらズルズルと引きずり、足を心臓より高い位置に置いてベッドへ寝かせる。
鞄から紐を取り出し、止血を始めた。
「よし。止まった。後は傷口を洗って消毒して、手拭いを巻かなきゃ。腫れてるところは冷やす! 」
血が止まると水で傷口を洗い、手拭いに焼酎を付け傷口を拭いていく。
あらかたの手当を終えると、ほっと一息ついて。
「この人、誰なんだろう。早く目、覚めるといいな。 」
真夜中の空き家には、千香と眠ったままの男だけ。
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