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夜が明けて早くも正午が近づいた頃、池田屋方面から聞こえていた声が止み隊士の一人が空き家に千香を呼びに来た。
怪我をしている人間も少なく、手当ては屯所へ帰ってからでも十分だと土方からの言伝を聞き、ほっとしたところで荷物をまとめ始める。
しかし、今だに目を覚まさない男がふと目に入り。
「あの、この人このお家の前で倒れちゃったみたいで手当てをしたんですけど、まだ目を覚まさないんです。どうすれば...。 」
「私の一存では決め兼ねます...。 」
隊士は眉をハの字にし困った様な表情をする。
「です、よね。でも、このまま置いて帰るのは良くないし...。 」
どうしたものかと悩んでいると、また誰かが空き家に飛び込んで来た。
「千香!終わったよ!千香のおかげで怪我しなかった! 」
「平助!良かったぁ...。お疲れ様。あのね、この人... 」
千香は藤堂の額を撫で、涙ぐみながらも側に眠っている男のことを藤堂へ説明した。
「ん...あ、れ。ここは...。 」
男が目を覚ました。
すかさず千香は男へと駆け寄る。
「目が覚めましたね!自分の名前、分かりますか? 」
「っ...。ああ。私は、森宮峻三と言う。 」
千香が支えながら半身を起こし、頭が痛むのか額に手を添え男はそう答える。
森宮。同じ苗字だけだと言うのに、何故だろうか。ドキリと千香の心臓が跳ねた。
「森宮さんですね。私たちは新選組です。森宮さんの怪我が治るまで、私たちの屯所でお世話して差し上げたいのですがいかかでしょうか。 」
スッと横から藤堂が出て来る。
その凛々しい表情に先程とは違う甘い高鳴りが胸が支配して。もう、自分の心臓は忙しいなと内心呆れ返る。
「かたじけない。傷が癒えるまで、世話になる。こんな体では郷に帰れないからな...。 」
「それでは、私は誰か人を呼んできます! 」
状況を察して、その隊士は外へと駆けて行く。
千香はその後ろ背を見ながら、頼もしいなと少し安堵し。
その隊士がもう何人かの者を連れて戻って来ると、千香たちの居た空き家の戸を拝借し、担架の様にして屯所へと運び始めた。
「何か身元でもはっきりすれば土方さんにも説明しやすいのにな。怪我してるんだし、治るまで安静にさせてやりたいけど...。 」
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