国が揺らぐ

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国が揺らぐ

その後、近藤らが広島へ長州訊問使に従って行くも、長州の実情を知るという目的を果たすことは成らず。年が明けて、一月二十二日。かの有名な薩長同盟が成立し、隊内はその噂でもちきりになった。何故、薩摩が長州と同盟なぞ。裏には土佐の坂本が絡んでおるらしい。と意識せずとも千香の耳に入ってくる程である。 「龍馬さん、とうとうやった。 」 自分の立ち位置的に喜んでいいのやら、どうなのか分からないが、千香には大きく歴史が動いたという実感を持つも。 「でも、今まで味方だった薩摩が敵になってしまう。鳥羽伏見の戦い頃には錦の御旗翻して、私らを攻撃するんやろなあ。 」 はあ。と溜め息を零す。 「ほんで、沖田さん肺結核やもん。もうどうしたらえん~! 」 女中部屋の机に突っ伏して、上手く回らない頭を抱える。ばたばたと足を動かし、うう...。と力尽きて。 「千香さん。その話は本当ですか。 」 急に障子が開いて、沖田が入って来た。後ろ手で障子を閉めると、食い入る様に千香へと迫った。またもや声が外に漏れていたのか。ああ。駄目だなあ、と思い千香は重い頭を持ち上げ沖田の方を向く。 「...本当です。今、隊内で薩摩と長州が同盟を組んだという噂で持ち切りでしょう。それが、後々新選組にとって不利に転ぶんです。現時点でも、日本中が動揺していると思います。仲の悪い筈の薩摩と長州が何故と。 」 「そう、ですか。 」 沖田はようやっと落ち着いたようで、千香の向かい側に腰を下ろした。 「怖い。どんどん変わっていく。それなのに、私には何も出来ない。 」 千香は膝を抱え、顔を伏せる。段々、暗い気持ちになっていく。 「いくら知識があったって、無意味だ...。 」 「...そんな事は無いと思いますよ。 」 「え? 」 千香は沖田の言葉に、顔を上げて。 「池田屋の時。本来なら、もっと多くの怪我人が出た筈なんでしょう?でも、千香さんが充分に隊士たちに声をかけた事で、無傷で済んだ者が多かった。ひとえに千香さんが未来を知っていたお陰です。 」 「そうでしょうか。もしそうなら芹沢さんや梅ちゃんのことは、どうして救えなかったんでしょう。それに、沖田さんのことも...。 」 じわじわと涙がこみ上げてくる。
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