心を尽くして

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心を尽くして

「やったあああああああああ!やっと、やっと貯まった!!」 バイトを終えた深夜の帰り道、少女が息を弾ませながらコンビニを探すのには訳があった。汗水垂らして幾年月。高校から大学にかけて貯めた泣けなしのバイト代が、とうとう、京都に行くのとお土産を買って帰るくらいに貯まったからである。勢い余って、少女は諭吉が入った封筒を握りしめた。もしお札が喋るものなら、間違いなくグエッと呻き声を上げていただろう。 「ッとと、先ずは新幹線のチケット予約しなきゃ! 」 キュッと立ち止まると素早くスマホを取り出し、操作を完了させる。 「よし、後は入金ね! 」 ぐるりと辺りを見渡し、いの一番に視界に入ったコンビニへ駆け込んだ。 「...。 」 レジの店員に白い目で見られたが、少女は気にも留めない。京都に行けるという嬉しさが打ち勝ったからだ。 「ありがとうございましたー。 」 店員の声を背に支払いを済ませて足早に家へと向かう。夜道だからスキップしても人も少ないし大丈夫だろうと思うも、犬の散歩をしていたおじさんにガン見されてしまったため、顔が熱くなり下を向いてとぼとぼ帰った。ガチャリ...。一人暮らしの部屋に鍵を閉める音が響く。 「にへへへへへ!!」 嬉しさで頬が饅頭のように緩んでしまう。何故なら先程も記したが、新選組屯所跡がある京都へ行けるからだ。 暫くの間感動のあまり動けずにいたが、靴を脱ぎ散らかし、部屋へ上がる。勿論、後程揃えたが...。すると、人目がないのをいいことに一人小躍りを始めた。思う存分舞った後、ひと編みかけの組紐に目をやる。 「浅葱色と白で作ったから、だんだら羽織っぽくてイイ!あともう少しだから、今仕上げちゃおうっと!京都にも持って行きたいし! 」 体をくねらせながらも台の前に座り、作業を始めた。次第に眠くなってきてうつらうつら、と睡魔と戦いながらも最後の一編みを終える。 「いよーし!ポニーテールにつけようっと! 」 出来上がった組紐を手に持ち、鏡の前に立つ。手際良く髪を結うと、赤いキャリーケースに荷物を詰め込み始めた。元々ショートカットが自分のアイデンティティーと考えていたが、高校三年の冬に新選組のファンになったことを機に心機一転。髪を伸ばし始め、今では立派な総髪を拵えられるほどに髪が伸びていた。
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