忠実に生きていくということは

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忠実に生きていくということは

翌朝、千香は峻三の分の朝餉を持って部屋へと向かった。それとなく身の上を聞けと、土方からの指示もあり、ドキドキしながら部屋の前に着く。 「森宮さん。朝餉持って来ました。失礼します。 」 「かたじけない。 」 峻三の返事を聞いて障子を開け、部屋へと足を踏み入れた瞬間。この時代に来た時の、あの空間が歪む様な感覚が千香を襲った。思わずギュッと目を瞑る。グワンとした感覚の後、再び目を開けると目の前に広がって居たのは、『平成』の京都の街並みだった。 「え...? 」 自分はつい先程まで、屯所で峻三の朝餉を運んで居たはず...。何が起こったのか理解出来ず、千香は必死に頭を働かせる。今着ている服は、着物ではなく。あの日と同じ服を着ていて、荷物も赤いキャリーケースと肩から掛けていた鞄で。 「戻って来ちゃったの...?それに何で今...? 」 暫くその場に立ち往生していたが、ふと携帯の時計を見るとあの日の日付のままで、時間もそのままだと言うことに気づき。 「ゆ、夢?...でも、龍馬さんから貰った簪は挿してあるし...。 」 ぐるぐると回る思考をただ持て余しているだけでは、時間の無駄かと思い、千香は一先ずホテルへ行って考えようと思い立ち、屯所跡を後にした。 千香は早めにホテルにチェックインを済ませ、部屋へ入りベットへダイブする。ボフッというベッド特有の感触と、部屋の造りを一瞥し、ここが幕末ではなく平成なのだということを身に染みて実感した。 「どうしたら、戻れるのよ。まだまだ、皆が命を落とす事件が残っているって言うのに何で帰ってきちゃうかなあ...。」 顔を伏せたまま、ぼんやりと考える。すると、自分があの時代に新選組と一緒にいたことによって何か変わっているのではないかと思いついて。 「気になるのは、森宮峻三。あんな人、今に残ってる新選組史に出てこなかったはずなのに...。 」 史料本ではなく、スマホで『森宮峻三』と検索をかける。あの時点であまり大きく新選組と関わりが無いため、史料本では載っていないかもしれない。唯、世話をしただけだから。でも、もしかしたらと思いスマホに頼ってみる。
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