ユキちゃん

5/5
前へ
/5ページ
次へ
 次にバイトに行ったとき、墨田さんが交通事故で亡くなったと知った。ひどい事故だったとだけ聞いた。  自分は二階に行けなくて、店長に辞めさせてくださいって言った。 「見た奴にはなんともないんだよ。せっかくなんだからもう少し続けないか? 」  そういう店長も無表情で怖くて、就職活動も始まるのでと言って辞めさせてもらった。もうこの店に近づきたくなかったし、何か知ってしまったことで自分についてこられても嫌だった。  自分が大学を卒業してからしばらくして、その居酒屋はなくなった。久しぶりに駅前に呑みに行くと、看板だけがまだ残っていた。一瞬見た二階の雨戸が開いていたので、見ないようにした。見ないようにしたのに、誰かがこっちを見ているような、そんな気配がした。  店が潰れた今でも、ユキちゃんはあそこにいるらしい。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加