ユキちゃん

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 大学生の時に居酒屋でバイトをしていた。雑居ビルにある店で、地下と一階が普通の客用、二階は宴会用の店だった。三階は従業員用の更衣室があった。この更衣室に行くまでに外の非常階段をのぼるんだけど、時々社員の人がタバコ吸ってたり、酔っ払いの揉める声がしていたり、今まで田舎に住んでいた自分には色々刺激が強かった。 自分は皿洗いだったからいつもパートのおばちゃんと一緒に皿を洗ったり、小鉢を作ったり、アイスクリームを作るだけの簡単な仕事をしていた。  ある日、店長から宴会の準備があるから手伝ってほしいって言われて、初めて宴会用の二階の部屋に行った。  二階の部屋は畳の座敷になっていて、旅館みたいな作りになっている。窓から外が見えるようになっているけど、普段は雨戸を閉めていた。 電気のついた部屋の前までビール瓶を運ぶと、テーブルを拭いてる女の子がいた。うちのフロアスタッフはみんなバンダナで髪の毛を束ねていて、赤いバンダナをしているのは女の子だけだ。 その子がふりかえった。目がくりっとしていて、黒髪を一つ結びにしいる可愛い女の子だった。 「お疲れ様です。」  にこっと笑って言った口元が可愛かった。  その子の名札にはユキと書かれていた。大学生一年生らしい。  フロアの人とはドリンクや料理を運ぶときと、閉店のときにしか会わない。自分は地下での皿洗いだったから、一階で働いてるのか、閉店前に帰っているのか、その後ユキちゃんと会うことがなかった。  ある日、フロアの女の子から皿を運ぶので手伝ってほしいと言われた。他のフロアスタッフはまだいなかったし、開店の準備で忙しいパートのおばちゃんたちに頼むわけにもいかなかったので、一緒について行った。 「ここ、なんか怖くてみんな一人で行きたくないんです。」  二階の宴会用の部屋はいつも真っ暗で、更衣室に行くときは部屋の脇を通らないといけない。その通り道も、節約でお客さんが来る時用の電気じゃなくて、裸電球一つだけだ。そのせいで二階はいっそう不気味だった。 「でも、墨田さんには行けって言われるし。困ってたんです。」  墨田さんは社員の一人で、フロア担当だった。
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