ユキちゃん

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 自分はあんまり話したことはないけど、フロアのバイトたちからは彼の不満をよく聞いた。特に女の子はセクハラされるので心底嫌がっていた。最近は新車を買ったとか自慢していて、遅く帰る女の子に送って帰ろうかとしつこく誘って周りは引いていた。  ユキちゃんのことを思い出したけど、店が開く時間なのでその子には聞けなかった。ユキちゃんも嫌々一人で掃除していたのかと思うと可哀想だった。  土曜日の開店前のことだった。なにか騒がしいと思ったら女の子が泣きじゃくっていた。バイトの子たちが慰めていて、ゴキブリでも出たのだろうかと思ったがそうでもないらしい。  結局その子は帰っていった。フロアの子たちはざわついていて、何があったか聞くと、パートのおばちゃんがぼそっと言った。 「二階に出るの。」 「出るって、幽霊ですか? 」  おばちゃんは顔をしかめて言った。 「なにか分からない。でも、時々そこで見る人がいる。」  おばちゃんはそれ以上話してくれなかったけど、幽霊だとか茶化してくれたほうがまだ笑えたのに、何かわからないって言われると余計怖くなった。  その時、ユキちゃんのことをまた思い出した。一人で掃除していた彼女は怖くなかったのだろうか。今日もあんな騒ぎがあったのに見ていない。 「あの、ユキちゃんって大学生のバイトの子知りませんか? 」 そう聞くと、パートのおばちゃんは首を横に振った。 「そんな名前の子いないよ。名字でも名前でも、ユキって名前の大学生はいない。」  おばちゃんはここにいるどのバイトよりも長く勤めているので、知らないはずがない。まさか、ユキちゃんは、と思ったけど、あんなに可愛くて明るい子がそんなはずない。自分をからかって本名を名乗らなかったんじゃないのかって思った。  土曜日なので忙しく、フロアの子達はうんざりした顔だった。普段はレジにいるだけの墨田さんも空いたグラスを下げに来ては、帰って行った女の子の文句をぶつぶつ言っていた。  墨田さんは用事があるとかで閉店一時間前にはいなくなり、フロアのバイト達からは彼の文句が止まらなかった。自分はお客さんが吐いたのをフロアのスタッフと一緒に片付けて、ゴミ出しもしていたので、店長以外のスタッフが帰ってから更衣室に行った。
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