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  金魚は空を泳いでいた。さも水中ですよという顔をしているけれど、ここは通学路。おしゃべりしながら歩く生徒たちをすり抜け、半透明の尾が日光を振り払う。きつくなった日差しをものともしていない。  二足歩行の三毛猫は金魚を追いかけて跳びかかり、また失敗。捕まえられないのだから、諦めればいいのに。 「待ってくれよ!」 「やだよ」  男子生徒が私の横を駆けていく。金魚と二足歩行の猫もついて行く。私はまたかとそれを眺めた。仲がいいのか悪いのか。人間たちの関係にそれらも影響されるらしい。  今日も変わらない日常。私だけの非日常な日常。    私は、いわゆる“見える”のだ。  人間もそうでないものも。そのせいで私の日常は毎日仮装大会のようだ。ただし、触ることはできないし、彼らも物に触れられない。立体映像のようなものである。 「おはよう」  心地のいいかすれた声に私は振りかえる。顔の前にはプレートアーマーを装着した騎士様が立っている。つい、頭を下げてしまった。騎士様は私のような一般庶民にも胸に手を当て、一礼してくれる。まるでゲームの中から出てきたようだ。 「あっ、おはようございます!」 「なんで敬語? 別に幼馴染なんだからいつも通り砕けた言葉でいいのに。それとも、また私の後ろの人?」 「うん、まあ」  騎士様の後ろから、ショートカットの少女が突き出てくる。彼女は私の幼馴染にして親友の佐納香だ。  目元は涼やかで、見つめられると自然と背筋が伸びる。彼女の立ち振る舞いはつま先から手足まで針金が入っているのかと思うほどにまっすぐでしなやかだ。スカートの下に体育用のズボンを履いていてもダサくないのは彼女くらいだろう。密かに我が高校の騎士様と呼ばれているだけある。  でも、クールな彼女の優しい顔を見れるのは幼馴染である私の特権だ。
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