序章~幼少期その①

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序章~幼少期その①

俺は、受刑囚だ。 刑期は、無期懲役。何人もの人を殺したからな。 刑務所内での態度が良ければ、出所することも可能らしいが、 俺にはその気はない。 出たところで、人間としての生活など、もはやできない。 俺の人生は、もう終わったのだ。 いや、それより前、ずっと昔から、こうなる事は決まっていたのかもしれない。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「おはよ、透!」 「うん、おはよう健司!」 健司は、小学校の時に初めてできた友達だった。 入学式の日、人見知りで誰にも話しかけられないでいた俺に、気さくに声をかけてくれた。 それ以来、俺は健司にくっついて回り、何をするにも健司と一緒だった。 他の同級生に話しかけることなど、怖くて到底できなかった。 健司は、地元のサッカークラブに所属していて、クラスの人気者だった。 俺のほかにも友達がたくさんいて、分け隔てなく接することのできる気さくな人間だった。 だから、健司に話しかけるたびに、彼のそばにくっついている俺を、いつしか彼の友達は 気味悪がるようになっていった。 そんな彼らの気持ちに気付こうともせず、無神経な俺は健司の所属しているサッカークラブに入りたいと思うようになった。 幼稚園の時から人見知りを心配していた親は、二つ返事で了解してくれた。 俺が活発にスポーツをすることで、友達ができるようになれば良いと思ったからだ。 そして、ついにクラブでの練習の初日。 コーチの声が、グラウンドに響き渡る。 「今日からクラブのメンバーとして一緒に練習することになった前田透だ。」 「と、透です、よろしくお願いします」 「おい、声が小さいぞ、もう一回!」 「透です!宜しくお願いします!」 「そういうことだ!みんな、よろしくな!」 ミーティングが終わると、あちらこちらで声が聞こえてきた。 「何だあいつ、下ばっか向いて、気持ち悪いな」 「ヒョロガリだし、ほんとにサッカーできんの?」 気まずくなった俺は、飼い主を探す子犬のように、健司のそばに駆け寄っていった。 「やあ、俺も今日からこのサッカークラブに入ることにしたんだ!」 すると、健司はまっすぐ俺を見て、答えてくれた。 「そうか!がんばれよ!」 だが、この関係性も、そう長くは続かなかった。
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