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それも、太陽光発電で半永久的に動ける。上等な奴だ――と付け加えて、僕は奥さんの声以外を改めて観察する。
樹脂の皮膚は左半分ほどが剥がれ落ち、錆びかけのカメラと補聴器を通さないと断片的にしか理解できない言葉しか発せ無くなった口の中身が見て取れる。元は鮮やかな緋色のドレスであったであろう服も劣化が激しく、上手く動かない左腕を覗かせる程度に破けており、鉄サビのようなくすんだ色をしていた。
かろうじて元の面影を見ることができるのは、顔の右半分と無傷の髪だけ――
「――いつから?」
動かなくなった表情から、ノイズ交じりの空気が漏れる。
「探偵さん教えて。いつから私はロボットなの? いつジャンクになってしまったの?」
「残念ながら僕には、奥さんが最初から機械人形だったのか、人間から記憶を移し変える技術を使って機械人形になったのか、何年前に生まれたのか、何年前に壊れたのか、というのは判別できません。
――僕に分かるのは、ご主人というメンテナンスを行う人間が居なくなってから、メモリにバグが発生してしまって、あなたの中から自分が機械人形であるという記憶と、6月30日土曜日以降の記憶が欠落してしまった。ということだけです」
そういいながら、僕は部屋の隅――ネジや、ジャンクパーツの山が積まれてる場所に移動する。
「しかし、最初から壊れていたわけではなく、ご主人の死後すぐは、あなたは自分が機械人形であることも、ご主人が死んだことも認識できていたんだと思います――でなければ、このようなことにはならない」
パーツをなるべくこわさないように掻き分けながら、その山を崩していく。
機械的な、無機質な雑多のパーツにまぎれて、有機的な飾り紐の付いた紫色の箱――ご主人の遺灰があった。
「これが、ご依頼の『ご主人の行方』です」
極めて丁寧に、僕は、奥さんへとその箱を手渡した。
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