29人が本棚に入れています
本棚に追加
「……違うもん」
涙声になった。さゆりと松岡がはっと息を飲む気配がした。
「ほんとにそういうんじゃ、ないんだもん」
あたしとおじさんの、ゆるやかなつながり。ささやかな癒しの時間。
誰にも、穢されたくない。ジャッジされたくない。
机にうつ伏せて、涙をこらえた。
「ごめん」
さゆりの声が、遠く聞こえた。
金曜日。
雨はすっかり上がっていた。放課後が待ちきれず、気もそぞろに過ごした。
掃除を終えて教室を飛び出そうとしていると、入口で誰かと肩がぶつかった。
「ごめんなさいっ……あ」
「葉月」
敬広だった。
「なに? どしたの」
「おまえのこと探しに来たんだよ」
腕をつかまれて、彼の顔を見上げる。
いつのまにこんなに身長が伸びたんだろう、あたしの幼なじみは。
でも今は、そんな感慨に浸っている暇はない。
だって、今日がおじさんに会える最後の日のはずだから。
「ごめん、あたし行くとこあるんだ。何か用だった?」
「いや……一緒に試験勉強しないかと思って」
歯切れ悪く、敬広は言った。
最初のコメントを投稿しよう!