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「彼氏はいないの?」
おじさんは話題を変えた。
「うーん」
あたしは低くうなる。黙りこむと、蝉の声がやけに耳についた。
「……なんだろ、腐れ縁の幼なじみがいるんですけどね」
「ほう」
おじさんは興味を示した。
あたしは、敬広の横顔を思いだしながら溜息をつく。
「何の因果か高校まで一緒になったんだけど、向こうに嫌われてないのも知ってるけど、何かこう」
「何かこう?」
「何かこう……、恋愛モードにならないっていうか」
「うーん」
「おじさんだったら、どうしますか?」
「どうもしないよ」
「えっ」
即答されて、おじさんの顔を見た。
「どうにもならない関係って、どうでもいい関係なんじゃない。どうにかしたいなら、とっくに動いてるはずでしょ」
おじさんはそう言って、アイスのついた親指をぺろりと舐めた。
ちょっと、どきっとした。
「JーPOPとかで、やたら若者の背中を押すようなポジティブな歌詞あるでしょ。あれ、俺嫌いなんだ。無責任だから言えるんだ、当たって砕けろとかさ」
おじさんはそう言いながら腰を上げた。
あたしは腕時計に目をやった。3時25分。おじさんが現場に戻る時間だ。
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