明日も、コンビニ裏で

7/16
前へ
/16ページ
次へ
「彼氏はいないの?」 おじさんは話題を変えた。 「うーん」 あたしは低くうなる。黙りこむと、蝉の声がやけに耳についた。 「……なんだろ、腐れ縁の幼なじみがいるんですけどね」 「ほう」 おじさんは興味を示した。 あたしは、敬広(たかひろ)の横顔を思いだしながら溜息をつく。 「何の因果か高校まで一緒になったんだけど、向こうに嫌われてないのも知ってるけど、何かこう」 「何かこう?」 「何かこう……、恋愛モードにならないっていうか」 「うーん」 「おじさんだったら、どうしますか?」 「どうもしないよ」 「えっ」 即答されて、おじさんの顔を見た。 「どうにもならない関係って、どうでもいい関係なんじゃない。どうにかしたいなら、とっくに動いてるはずでしょ」 おじさんはそう言って、アイスのついた親指をぺろりと舐めた。 ちょっと、どきっとした。 「JーPOPとかで、やたら若者の背中を押すようなポジティブな歌詞あるでしょ。あれ、俺嫌いなんだ。無責任だから言えるんだ、当たって砕けろとかさ」 おじさんはそう言いながら腰を上げた。 あたしは腕時計に目をやった。3時25分。おじさんが現場に戻る時間だ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加