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「工事はいつまでかかるの?」
立ち上がろうとするおじさんに、あたしはたずねた。
「今週の金曜まで」
「そうなんだ」
そしたら、今週は毎日来よう。そう思った。
「でも雨が降ったら中止」
「作業できないから?」
「そう」
ばいばい、とおじさんは人懐っこい笑顔を浮かべ、あたしに背を向けた。
その姿を見送りながら、今日は自分のことばかり喋ってしまったな、と思った。
あたしはまだ、おじさんのことを何にも知らない。名前も、年齢も、住んでいるところも、なんにも。
ただ、アイスの好きな解体工だということしか。
水曜日。
帰りのHRを終え、当番の教室掃除を急いで済ませようとしていると、モップを持った美園が寄ってきた。
「葉月、昨日って部活行ってた?」
「え、なんで?」
あたしは少し動揺してたずね返した。
「敬広くんが探してたよ」
どきりとした。
隣りのクラスの敬広とは、幼稚園の頃からの仲だ。
思春期以降、気づけば異性として意識するようになってしまったものの、あまりにも何も起こらない関係にうんざりして最近は距離を置いていた。
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