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私は雨の日が好きです。
六月生まれだからというのも関係しているのかもしれませんが、昔から雨の降る日が好きでした。
屋根を叩く雨音、カラフルな傘やレインコート。そういったものが私を楽しませてくれます。
そして、私が雨の日を好きな理由の一つに「水たまり」の存在がありました。
あれはまだ私が幼い頃、雨上がりの道を母と一緒に歩いていますと、道にできた水たまりの中でなにかが動くのが見えました。
不思議に思った私が水たまりを覗き込むと、水たまりの向こうから私と同い年くらいの男の子の顔が覗きました。
私と男の子は互いに驚き合い、私は母に「水たまりの中に男の子がいるよ!」と叫びました。
しかし母は「そんなわけないでしょ」と言って笑い「ほら、なにもいないじゃない」と私の頭を撫でました。
どうやら、私以外には水たまりの中の男の子は見えないようです。
雨が降り、水たまりができると私は必ずその中を覗きました。そうすると、水たまりの中から男の子が覗き返してくるのです。
水たまりの男の子はこちらを覗いている時もありましたし、お母さんやお友達と一緒に遊んでいる姿が見えることもありました。
中学生になると、さすがに私にも羞恥心というものが芽生え、あまり表立って水たまりの中を覗くことはしなくなりました。
しかし友達と歩いている道すがら、ちらりと水たまりを見たりすることはありました。すると、私と同じだけ大きくなった男の子も私と同じようにこちらを見ていることがありました。
私たちは目が合うとこっそり笑い合ったりしたものです。
高校生になり、クラスの女の子が同級生の誰が好きといった話に花を咲かせている頃、私はというとまだ会ったことすらないあの男の子のことが好きになってしまっていました。
男の子に会える雨の日が、より一層楽しみになった時期です。
男の子は高校からサッカーを始めたようで、私が雨の日に水たまりを覗くと、雨の中一生懸命ボールを追いかける彼の姿が見えました。
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