水たまりの男の子

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 高校を卒業した私は、大学に通うために単身東京へ引っ越しました。  大学の入学式が終わった翌日に入学説明のオリエンテーションがキャンパスで行われました。  そこにいた同級生たちはなんだかみんな大人びて垢抜けていて、私はこの先の大学生活をこの人たちと楽しめるのかどうか不安になりました。  オリエンテーションが終わって帰ろうとしますと、キャンパスの外では雨が降っていました。天気予報では晴れになっていましたので傘は持っていません。  私はキャンパスの陰で雨宿りをすることにしました。  同学年の子たちはキャッキャと笑い合いながら皆駅に向かって走っていきます。みんな、もう友達を作っているんだ。すごいな。となにか置いてけぼりをくらったような気持ちになり、私は少し泣きたくなってきました。  と、キャンパスの屋根から少し離れた場所に水たまりができていました。  そういえば最近、彼に会っていないな。そう思った私は不安な気持ちを彼に会って紛らわそうと、持っていた大きなトートバックを傘代わりにして水たまりに向かいました。  私が水たまりを覗き込みますと、そこにはなにも映っていませんでした。彼はおろか、水たまりはただの水の集合体となって、私の姿を映し返しています。  こんなことは初めてでした。  なんで。どうしても彼に会いたいのに。  私は水たまりに手を伸ばし、水たまりに触れました。すると、水たまりの表面に波紋が広がり、水たまりの中はさらに茶色く濁ってしまいました。  私はもう彼に会えないのだろうか。  大学生活への不安な気持ちも相まって、私の目には涙が滲みました。  と、水たまりのそばに誰かの足が見えました。見上げると、その人は傘を私に差し向けながら「風邪を引くよ」と言ってくださいました。 「す、すみません!」 慌てて立ち上がった私に、傘の持ち主は 「あ、でも雨、上がったね」 と言いました。  傘をたたむその男性の顔を見て、私は思わず「あっ!」と大声を出してしまいました。 「僕は入学式の時に気がついていたよ。初めまして……でいいのかな?」 そう言って笑う彼は、水たまりの向こうの彼でした。  照れくさそうに笑う彼の後ろで、曇り空から差し込んだ日光がキャンパスを虹色に輝かせていました。
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