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予報通り、雨が降った。
ざあざあと音を立てて降りしきる雨を眺めながら、わたしは昇降口でひとりたたずむ。空は灰色の分厚い雲に覆われ、あたりは薄暗い。
すぐ横を、天気への不満をこぼしながら、数人の生徒が傘を手に通り過ぎていく。
「相沢さん?」
背後から、わたしを呼ぶ声がした。振り返ると、見知った顔がそこにあった。
「あ、桐生くん。いま帰り?」
「うん、そうだけど。どうしたの、そんなところでぼうっと立っていて。もしかして、また傘忘れたの?」
きれいな瞳が、わたしをのぞき込む。いつ見ても、凛とした顔立ちだなと思った。
「忘れたわけじゃないんだけど……」わたしはちらりと傘立てを一瞥した。「誰かが間違って持っていっちゃったみたいで」
「え。うわ、それは災難だったね」
桐生くんは困ったようにこめかみを掻いたあと、「そこらへんのビニル傘を借りていくのは――」
「その人に悪いでしょう」
「だよね」桐生くんはばつが悪そうに笑った。「もしよかったら、いっしょに入ってく?」
「いいの?」
「女の子を雨に濡らすわけにはいかないでしょ」
わたしは少し迷うふりをしたあと、「じゃあ、お願いしようかな」
「了解」
彼が開いた紺色の傘の下に、わたしは身体を滑り込ませる。雨に濡れないよう、なるべく真ん中のほうへ。
「それじゃあ行こっか」
ふたり並んで歩き出す。
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