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傘を持つのは桐生くんだ。彼の身長は百七十センチを超えるから、低身長のわたしが持つと高さが足りない。以前、無理をして持とうとしたら、彼の頭が傘の布地にめり込んでしまった。笑って許してくれたが、あのときは、大変申し訳ないことをしたと思う。
相合い傘をしながら、通学路を進む。民家と田園に挟まれて伸びる通りは静かなもので、潮騒のような雨音ばかりが耳に響く。空気はひんやりと冷たい。
道中、わたしはこっそりと桐生くんの横顔を盗み見た。
あと数センチ横にずれたら触れ合えてしまうほど、彼がすぐ傍にいる。
意識すると、わたしの心臓の鼓動は高鳴った。
傘の下の小さな世界にいるのは、わたしと彼だけ。誰にも邪魔されないふたりだけの空間。
他愛のない話で盛り上がりながら、この幸せな時間がずっと続けばいいのに、と願う。
ちくり、と一抹の罪悪感が、胸を刺した。
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