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柴田さんは、三十代半ばくらいで、決してイケメンでもハンサムでもない。中肉中背、眉毛が太くて目は細い一重まぶた。何なら、仏頂面の、少し怖い顔。
だけど、柴田さんは、よく気が利くタイプの人だ。
どんなに真剣に棚に商品を並べていても、お客が来ればすぐ「らっしゃっせぇ」と言う。間違えられないであろうレジのお金を数えていても、隣のレジにお客が並べば即座にレジ休止のプレートを外して「こちらのレジどーぞー」と言う。
コンビニで働いてる人なら当たり前なのかもしれないけど、何でもトロい私からしたらすごく素早い動きで気が利くな、と思う。
柴田さんは、仕事をほとんど休まない。
少なくとも、私がコンビニに寄る平日は必ずと言っていいくらいいる。
いつ休んでいるのかわからない。週末に休んでいるのかなと思ったけど、私が土曜日に休日出勤したときにいたこともあったから。
そんなに毎日コンビニにいて、飽きはしないのか、身体を壊さないのか、なんて私が思っても、柴田さんは毎日「あっ幸せー」と言う。
無愛想でつまらなそうな顔で「あっ幸せー」と言うのが、シュールでとても面白い。
そんなのはただの私の空耳なのだけれど、私はそれを聞くたびに、クスッと笑えて、元気になれた。
当の柴田さんは、知らないだろう。
私がどれほど柴田さんから元気をもらっているか。
柴田さんを見ていると、私も仕事を頑張らなくちゃ、と思う。柴田さんのように休まず、実直に黙々と、気を利かせて素早く動く、そういう仕事をしなくては。
そして、この仕事ができて「あっ幸せー」と言えるくらいにならなくちゃ、とも思う。これはあくまで私の空耳から出た妄想であって、柴田さんは不本意だと思うけれど。
とにかく、私はそんな私に元気をくれる柴田さんがとても気になっている。
毎日ここに来るのは、柴田さんの仕事ぶりを見たいのと、「あっ幸せー」という棒読みが聞いて笑いたいからだ。
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