柴田さん

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 柴田さんが気になってしまう理由は、何気ないこと、コンビニではよくあることばかり。  けれど、誰しも気になる人ってそんなものなのではないだろうか。  代わり映えのない毎日の中で、なぜその人が目に入るのか聞いても、別に大した理由などない気がする。  例えば、いつも乗る電車で会う人の読んでいる本の趣味が一緒だとか、車のナンバーが面白いゴロになってるとか、すれ違う人の香水の匂いが好きとか、そんな程度なんじゃないかと思う。  ものすごいイケメンさんや美人さんに出会う機会なんて滅多にあるものじゃないし、そんなことから始まる運命の物語なんて、それこそ少女漫画や小説の世界だろう。  私は、たまたま入ったコンビニで、落ち込んでいるところを笑わせてもらっただけだ。柴田さんは笑われてるなんて思ってもないだろうけど。  今日も柴田さんが勤務している。  元気なのかどうかは知らない。いつも同じ無表情だから。  私が入る時間帯は、通勤ラッシュだからいつもレジが混んでいる。  けれど、どんなに並んでも心配はない。柴田さんは華麗にレジの客を捌く。無表情で愛想はないけど、的確に。ポイントカードや電子マネーの対応も、切手の購入やチケットの引き取りも、とにかくどんなものでも躊躇わない。  そして何と言っても、お釣りを出すのがすごく早い。金額を言いながら、指でレジの中の小銭を“チャチャチャチャッ”と目にも止まらぬスピードで弾く。  今日の柴田さんも冴えている。なのに笑えるのはなぜだろう。無表情で素早く動くシュールさ? よくわからない。  私はいつものノンカフェインのお茶、サラダと胡麻ドレッシングを選びながら、横目でレジの柴田さんをチェックする。  こんな混む時間帯に公共料金の支払いかぁなんてのは私の杞憂。それも柴田さんがサッと処理してくれる。  私は、2台のフル稼働しているレジを見ながら、どちらに並ぼうかと計算を始めた。この人は品数が少ないからすぐ終わる、この人は現金支払いだから時間がかかる、そんなことを考えるのだ。  柴田さんに会計をしてもらいたいけれど、並ぶレジを見誤るとタイミング悪く隣のレジに案内されてしまう。  トロくて職場では“イライラする”と陰口を叩かれている私だが、こういう計算は素早い。  我ながらバカだと思うし、もっと仕事に頭を使えと思うけど、仕方がない。興味のあることには誰だって貪欲だろう。
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