柴田さん

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 柴田さんがこちらに来た。  相変わらず表情は変わらない。にこりともしない代わりにイラッとした顔もしない。 「……これ、何かピーって……」  女の子は擬音語を使って可愛くそう助けを求めた。 「あー。これ、消費期限が切れてんだよ。 ……お客様、同じ種類の新しいものをお持ちしますね」  やはり私の思ったとおりだった。柴田さんがレジカウンターを飛び出して、サラダのコーナーへ行き、すぐに同じサラダを持ってきた。 「こちらですね」 「はい」  そしてあっという間にレジを通した。 「お待たせして申し訳ありませんでした」 「いえ」  柴田さんと事務的な棒読みの会話をし、商品が入った袋を女の子から渡されたので、私は出口に向かった。 「ありがとぉござんしたー」  背中にいつもの柴田さん独特の「ありがとうございました」を受けて、店を出た。  車に乗り込む前に、チラリと店内を確認する。  無表情の柴田さんが、ニコニコと楽しそうな表情の女の子に話し掛けているのが見えた。  指導か何かをしているのかもしれない。でも、何であの子はあんなに楽しそうなのか。ミスしたのだから、少しはシュンとしたらいいのに。  柴田さんを呼ぶときも何だか甘ったるい声だった。「何かピーって……」なんて台詞も、若い女の子だから許されるのだ。  大体、新しい商品を取りに行くのだってあの子がやるべきだし、「お待たせして申し訳ありませんでした」の言葉だって柴田さんじゃなくあの子が言うべきだ。私は柴田さんには待たされていないのだから。  何だろう、すごくモヤモヤする。  そこまで考えて、私はハッとした。  すごく嫌な女だ、私。一回りくらい違いそうな女の子に、そんなこと考えてしまうなんて。  それに、私は仕事で人に聞いたり手伝ってもらうときに嫌な顔をされて悲しかったときがあったじゃないか。こういうときこそ、私は優しい気持ちを持たなければ。  柴田さんが来るまでは苛つかずに待っていられたし、そもそも私が消費期限切れの可能性を指摘する勇気がなかったから時間が掛かったのだ。  私は車に乗り込みながら顔を一つ叩き、そう思い直すことにした。  けれど、職場に行っても一度現れてしまったモヤモヤは消せなくて、何となく仕事に身が入らなかった。  通常どおりでもミスをするのだから、モヤモヤしていたら当然ミスをする。  私は、この日大きな失敗をしてしまった。
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