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午後の授業のチャイムと同時に、先生がいらした。
始業の挨拶がすむと、めがねの奥の切れ長の目を輝きで満たしておっしゃった。
「今日はみなさんに、うれしいご報告があります。卒業生のいりあさんが、この度無事にマリアになられました」
先生の誇りと喜びにあふれた声をきくと、クラスのみんながわあっと歓声をあげた。
「昨晩だったそうですよ。3200グラムの元気な赤ちゃんです」
厳しいテストを乗り越えてこの学園を卒業することができた人は、「マリア」になる資格を与えられる。「マリア」とは、赤ちゃんを産んでお母さんになることだ。
「マリア」の資格を与えられた人は、国から「赤ちゃんのもと」がもらえる。それは、もう何年も前に死んでしまった、世界で最後の男の人の身体の中にあったものなのだそうだ。
私のお母さんやおばあちゃんが若かったときは、今よりはもっとたくさん「赤ちゃんのもと」があって普通の女の人でもお母さんになることが許されていたみたい。でも今は、あと百個くらいしか「あかちゃんのもと」が残っていないと先生から教わった。
私たちがこの学園で英才教育を受けているのは、その残り少ない「赤ちゃんのもと」をいただくのにふさわしい女性になるためだ。健康で優秀な赤ちゃんをできるだけたくさん産んで世の中に貢献することが、選ばれた私たちの指名なのだ。
いりあ先輩のお知らせを聞いて私も嬉しかったけれど、反面私の奥の方で最近不安に思っていることがふくらんできてしまった。
私は立派にマリアになることができるのかしら。
成績や性格の心配もさることながら、だれにも言えない心配がもう一つあった。もう五年生なのに「紅いおしるし」がまだこないことだ。
「紅いおしるし」はマリアになるための大事な準備だと先生がおっしゃっていた。お友達は、早い人は四年生のはじめくらいから「紅いおしるし」が来ているみたい。
私はひょっとしたら、病気なのかしら。成績もふるわない上に病気にまでなってしまったら、退学になってしまう。そうしたらどうしよう。
そんなことを考えていたらいつの間にか授業が終わっていた。
「しのさん」
先生に声をかけられて、飛び上がるほどびっくりした。授業に集中していなかったことを注意されるに違いない。
「今日は大事なお話があるのです。あとで講堂へいらっしゃい」
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