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タカシには、気になる人物がいた。
それは通学路にいつも立っている男性の事。
しかしながらそれは、同性なのにカッコよくて気になってしまうとか、憧れとか、そういう生易しい感情ではない。
恐怖。
タカシはただただ恐怖した。
小学5年生と言えど、たいていの事はもう分別がつく年齢である。
しかしながら、タカシは確信している。
アレは絶対にこの世のものではない。
というより、仮に『アレがこの世のものだとしたら』、自分の今まで生きてきた世界がすべて崩れてしまいそうで、それがとてつもなく怖かった。
その男性は、右手にカレーライスの食品サンプルを持っていた。
左手にはテニスボールを二つ。
また、上半身は全裸であった。
万国旗が垂れ下がった左の乳首に対して、右側にはグリーンピースが乗っかっている。
その間を通るようにして、「本日の主役」のタスキが肩から掛けられていた。
髪は嫉妬するほど艶やかな亜麻色で、それを綺麗に七三にまとめてある。
股間には大きな白鳥の首がくっついており、その頭には小さな王冠が乗っかっていた。
傍らに置いてある小さなラジオからは、いつも玉音放送が流れていた。
タカシは登下校の時間が苦痛である。
何故ならこの男性を毎日見なくてはいけないからだ。
タカシは今日も恐ろしい感情で心に限界を感じながら、その男性が乗っている消火栓の前を通り過ぎた。
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