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 雨が降っているので喫茶店の軒下で雨宿りをしていたら、星屑が落ちてきた。  星屑は尻餅をついてしきりに腰をさすっていたけれど、やがて僕を目にして、にんまりと笑い、そのまま僕の手をぐいっと引っ張った。僕は目を白黒させながら、引かれるままに付いていくことになった。  引っ張られれば引っ張られるほど、世界は色を失い、モノクロウムに変わっていく。  色を吸い込んでいるのは腕を掴んだままの星屑だ。星屑の前では誰も彼もが色を失っていく。  星屑はそれを知ってか知らずか満足そうに飛び跳ねるし、そのたんびに彼のポケットから色が零れ落ちて、アスファルトを鮮やかに染めた。まるで生きたペンキだ。  僕はもう存在そのものまでもがモノクロウムになろうとしていた。人間がモノクロウムに染まりきると、それは人間という性質を失い、影の世界にしか住めなくなってしまうから、非常に慌てていたけれど、僕の手を取る星屑がどうやら慌て者の上に愉快に飛び跳ねては色を時々零すから、なんとか影に染まりきらずに済んでいた。  やがて星屑はキキキキ、と立ち止まって、僕に聞いた。  ――ぜんたい、俺はいつになったら空に戻れるんだい。  僕は答える。  ――もう少ししたら、一番星が出ますからねぇ。  そう言った途端、空には宵の明星があって、チカリチカリとモールス信号のように瞬いて見せた。星屑はにまっと笑うと、  ――ああ、なるほどね! では皆様、ごきげんよう。  そう言ってまったく星らしい輝きを取りもどし、三段跳びで空へ帰っていった。  僕の色は、その時彼から零れ落ちた雫で取りもどしたけれど、なんだか以前よりもワントーン薄くなってしまったような気もする。  それでも影になってしまわなかっただけ、ましなのかも知れないけれど。
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