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学生カップルを避け、早足で香水の甘ったるさを追い越しながら私はふつふつと苛立ってきていた。
まだ5月だというのに、雨が降ると熱が肌にまとわりついてじめじめと汗ばみ気持ち悪い。
来週からと予想される梅雨が憂鬱で仕方ない。
しかし今、こんなに苛立っている原因が雨だけのせいではない事は自覚している。
少しずつ濡れていく黒いスキニーの裾とその少し先を睨みながら、数時間前の出来事を思い返してみる。
私が通う製菓の専門学校では現在週に2日、洋菓子作りの実習日がある。
今日の午前中も、朝から実習で菓子を作っていた。
3人1組の班で忙しく作業をしていく中、1人がシュークリームに挟むカスタードを駄目にした。
どうやら火加減を間違えて盛大に焦がした挙句、パニックになってその鍋を落としたようだった。
そいつは今日の実習中、それまでも材料を入れる順を間違えたり、分量を間違えたりと小さなミスをたくさん起こしていて、私はただでさえ苛々していただけにこのカスタードが決定打となって爆発した。
そいつに向かっていい加減にしろと怒鳴った。
なんでこんな基礎的なことも出来ないのか、同じ班で迷惑だと、思いつくまま言葉にしていくにつれ相手が萎縮していくのを冷静に見ていた。
けれど1度爆発させた口を自分で止めることは出来なかった。
もう1人、同じ班だった 悠花(ユウカ)が私の名前を怒鳴ってくれたことでようやく口を止めることは出来たが気は収まらず、目の前でびくびくするそいつにさらに苛立ちを募らせていった。
それからどうやって実習に戻り、どんな顔をして過ごしたのか、覚えていない。
けれど実習が終わり、ロッカー室で着替えている時悠花に言われた言葉ははっきり覚えている。
「さっきの、流石に言い過ぎだったよ。たしかに柴田君がぽんこつなヘマしたのは良くないけど、あれはきつく当たりすぎ。後で謝っときな。」
その時の私はまだ苛立ちが少しも収まっておらず、声を荒くして答えた。
「謝る?私が?謝るべきは柴田でしょう。私だったらあんなミスはしない。こんなところで足引っ張られてこっちは迷惑してるの、悠花もわかるでしょう。」
「気持ちはわからなくない。あんたの意識の高さにも尊敬するけど、言い方がキツすぎる。自分に厳しいのはいいけど、他人にまで押し付けるんじゃないよ。」
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