直径10マイクロメートル

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いつの間にか僕はいた。 ここがどこかも分からない。周囲が白か黒かも分からない。 重力を感じないのは空を落ちているからだと気付いたのは、体が粒となり剥がれていくのを見たときだった。次々、粒が流されて、しかし体が無くなるわけでもなく、どうやら周囲の粒を吸い込んで、大きくなったり小さくなったりを繰り返しているようだった。 たまに吹く強風に、体の大半を飛ばされながらも舞い上がるのが妙に心地良い。薄暗い空ではあるけれども、どこまでも飛んでいけると信じる事が出来たんだ。 僕以外にも誰かいるのだろうか。似たようなものはあるけれど、誰かがいるかは分からない。誰かがそこにいたとしても、同じように僕がいるとは思えないだろう。でも誰かの粒に包まれていると思うと、少しも寂しい気持ちにはならなかった。 遠くから何かが壊れる音が近づく。不安が一気に全身を引き裂く。音が何かは分からないが、終わりがすぐ近くにあるのだとはっきりと分かる。僕は震えている。ほかのみんなも震えている。突然の終わり。空はもう舞えないのだ。そうしてその時、今までにない、激しい衝撃と共に、僕らはぽちゃんと砕け散った。 薄れ行く意識の中で重力を感じると気付いたのは、大きな体の中をゆっくりと沈んでいた時だった。目を閉じれば、みんなの囁きが聞こえてくる。暗く静かな世界ではあるけれども、大きな安心に包まれているんだと実感できた。僕らは溶け合い、隔たるものは何もなく、どこまでもどこまでも、無数の命と繋がっていたんだ。 もうすぐ僕は消えるのだろう。遥かに続く、冒険の思い出を胸に秘め。
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