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「うわっ! 」
「しっかり、掴まって。バスルームに行くよ」
そう言うと歩き出した。
突然の浮動に反射的に南の首元に腕を絡める泉。
裸の南が裸エプロンの泉を姫抱っこして歩くという薄ら寒い絵図にギャラリーは居なくても恥ずかしくなる。
「エプロンぐちょぐちょになっちゃったね」
残念そうにそう言った南。
ギュッと首元に絡める力を強くして南の肩に顔を埋めると泉は小さく言った。
「エプロンなんていつだって着けてやる...」
「へ? 」
「だから!裸エプロンでも何でも南がして欲しいことはしてやるって言ってんだよっ! 」
言いたい事を南の肩口で叫んだ泉。
その言葉にピタっと足を止める南。
「どうしよう、俺のお嫁さんが健気すぎてツライ」
「はっ? 嫁ってなんだよ!嫁じゃねぇし! 」
二人の目の前には既にバスルーム。
抱きかかえられていた泉の体がひんやりとするタイルの上にそっと置かれた。
己の視界に笑顔の南が映る。
「精一杯お嫁さんのお世話をしないとね」
『お前こそ健気だろ! 』と思ったが嬉しそうに笑う南に突っ込まず、代わりの返答をした。
「...しょうがねぇから、南の叶えて欲しい事何でもしてやるよ」
職業柄不規則で家に帰ってこれない時もある年上恋人。
年下で大学生の己の与えてやれるものなど少ないのだ。
だったら、『欲しい』と言うものは何だって与えよう。
目の前の恋人を前にそう思う泉だった。
了
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