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「....うわー」
洗面台の鏡の中に映る己の姿を見て、先程までのハッピーな浮ついた気持ちが萎んでいく。
視線の先にいる男は間違っても可愛い新妻などでは無く女性らしい凹凸もないただの男なのだ。
「ないわー」
改めて見慣れた顔と体がフリルのエプロンを纏っているのを見て泉はなんだか現実に戻ってしまった。
心の底から脱ぎたくなってしまうが南の一言を思い出し躊躇する。
『俺、泉の裸エプロン見たいっ! 』
『ム...ムリ』
深夜番組を見ている最中に言われた言葉に若干引き気味に即答すると南はそれからというもの数日間元気がなかった。
目に余るほどの落胆ぶりに良心の呵責を覚えた泉。
幾日もしないうちに原因となったものをこっそり通販にて購入してしまうがそれから南の仕事が忙しくなり使う間なく今日である。
「だっ...大丈夫。南なら喜ぶ筈! 」
鏡の中のアンバランスな裸エプロンの己に無理矢理暗示をかけるように目を見て言い放つ。
3回ほど繰り返せばなんだか大丈夫な気がしてきたから人間とは不思議なものである。
『後は南が帰ってくるのを待つだけ』
全ての用意が終わっている為にする事がなくなった泉の元へそのメールはやってきた。
『ごめん、打ち上げが入ったから遅くなります』
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