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「捕られるもんなんざなんもねーよ。今なら誰も呼ばねーからとっとと帰れよ」
「は?無理ー。売上とかあんだろ?」
「ねーよ。今日は閉店前に全部売り切れて早仕舞いしたからもう預けに行って貰った」
「嘘。そういうの早く言えよ。無駄損じゃん」
「なんでだよ。てかお前泥棒の癖に偉そうだな」
あまりにも常識離れした会話に軽く笑いが込み上げ口元に手を当てながら返事をする。
「当たり前だろ、大泥棒はふてぶてしいって相場が決まってんだよ」
「どこ情報だよ。……ったく、なんもねーけどコレやるから帰れよ」
そう言ってポケットから自分用に取っておいた十五夜饅頭を取り出して男に放った。
「……?なにこれ」
「今日売ったやつ。十五夜饅頭。フツーの酒饅頭だけど」
「お!俺の好きなやつじゃん!!」
「ま、じーさんの味とは比べもんになんねーけど」
そう言って視線を落とし少しだけ頭を掻く。
「へー、けどお前の自信作なんだろ?」
「え?……ってうわ!!」
思いがけない言葉に顔を上げるといつの間にか男が自分の目の前に移動しており思わず声を張り上げた。
「美味かったらまた来るわ」
そう言って目の前でニカッと笑うと男は踊るように流しのところまで戻るとフワリと浮くように窓枠に飛び乗りそのまま姿を消した。
「なんなんだあいつ……」
暫く開け離れた窓を茫然と見つめ、漸くそう独り言を絞り出した。
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