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あの時。声をかけていれば。
そう思う。そして、仮にかけても何も変わらなかったと思う。
肉が弾ける音がした。皮が裂ける音がした。骨が砕ける音がした。臓物が散る音がした。血が流れる音がした。何かを無くした音を立てた。
そんな音を見た。別に言えば、音しか見れなかった。見なかったのではなく、見れなかった。
彼とは、つい数分前に屋上に繋がる階段ですれ違った。すれ違う時に落とした、スケッチブックを拾って貰った程度の仲だった。
スケッチブックには、私の色々な感情が書かれている。それぞれのページは十人十色の群衆だ。今となっては一ページ足りない、
彼が死んだのは悲しくはない。きっと、また沸いてきてしまうだろう。それでも彼が死んだのには意味があるのだろうと思う。
そうやって、ページを破り捨て、自分を殺す。
「さようなら、私。おはよう、わたし。」
悲鳴の残響が聞こえた気がした。
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