銀灌

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指先は檸檬の香り 窓を開ければ排気の(にお)い 胸中の隘路を酸素が捩じ込む 青い稲穂に突き抜けた白 優雅に頚をもたげる 桐月(とうげつ)間近に点々と儚む (すべ)て幾億の内の些細な事象と。 濃紺に散らす淡い飛花(ひか) 溢れる儘に沈んで往けたら 底冷えの(しろがね)で赦されるだろうか 爪先は氷解の名残 綿を被せた泥濘(ぬかるみ)で欠伸 肺胞が怯んで噎せ返る宵闇 無数の針穴を天井に開けて 輪郭を曖昧に照らす 何時しか流れる(みち)を見誤る 視線を交わすことさえ戯言に過ぎず 蒼白の灯りは虚像なのだ 離れ過ぎた単位こそが事実で 軸のずれた邂逅など起こり()る筈も無く 底冷えの(しろがね)揺蕩(たゆた)う儘に
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