花が好きな君だから

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 自分のことながら、さっぱり理解出来ないことがある。    僕、佐々木拓斗(タクト)は大した特徴も無い地味な男だ。  クラスで浮くことも無いが、評価されることもない。ただただ地味なだけ。  そして、彼女、後藤凛耶(リンカ)も、僕と同じく、地味なだけの少女である。  僕と彼女は全く接点が無い。お互い地味だからこそ、同級生にも関わらず、触れ合うことが全く無かった。  別に彼女が隣に来ても、何も胸に来ないし、ときめくことも無い。だけど、何故か僕は凛耶が気になった。  彼女は花が好きらしく、高校中の花壇の世話をしているらしい。昼休憩と、場合によっては放課後もかけて、彼女は花壇の世話を行う。  同級生も、それに対して、さほど興味を示さない。がんばってるねー。とそれ位の微妙な高評価。その程度の反応だった。  僕は、花にも彼女にも興味が無かった。だけど、ある時彼女が花壇の土を戻して、土まみれになっているのを見てから、何故か僕の関心は彼女に向かっていった。  自分の感情だが、全く理解出来ない。大したことでは無い。が、もにょもにょとした何とも言えない恥ずかしさが胸に灯る。  昼休憩、悩んだ僕は、彼女の所に会いに行った。いつも通り、彼女は花壇の世話をしていた。土を増やして綺麗にし、花壇に入っていた石を一個一個丁寧に取る。  彼女は、僕が近づいたことに気づき、後ろを振り向いた。汚れたジャージに後ろに括った髪も顔にも土がついている。  だが、僕には振り返った彼女がとても魅力的で可愛く見えた。普段は全くそう見えない。だが、少なくても今、僕は彼女に恋をしていると言って良い。  悩みすぎて寝不足な上に、彼女に見惚れていた僕は、何をとち狂ったのか、口から予想外の言葉が出ていた。 「明日土曜日。僕とデートしない?」  そんなことを言うつもりも無かった。だが、何故か口からそう出ていた。  そして何故が更に追加された。彼女は無表情のまま、僕の提案に頷いていた。
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