花が好きな君だから

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 電車を二本乗り継ぎ、その上で一時間バスに乗る。ただ花を見る為だけに、朝早くから起きて移動しないといけない。  遠い目的地。だけど僕は全く苦痛に感じなかった。電車の中、彼女はずっとにこにこと蒲公英のような優しい笑顔を浮かべている。  電車の中で彼女は、僕に嬉しそうに話しかけてきた。 「この時期なら何が一番綺麗かしら?チューリップ?」  今から行く場所に、期待で一杯の彼女。そんな彼女に僕は見とれて返事を忘れる。彼女の笑顔が僕に焼きついていくのを感じる。 「うーん。何かな。あ、話変わるけど、あなたはどんなお花が好き?」  ふと意識を戻すと彼女からの質問。僕はしどろもどろになる。 「えっと。……その……」  そんな僕を見上げながら楽しそうに見つめる彼女。普段は結んでいる髪がさらさらと流れ、麦藁帽子が嫌味無く似合う。  今日は何故か彼女の距離が近く、僕は心臓の音が聞かれないかと心配になった。 「クリスマスローズ……。レンテンローズが好きかな。今とは時期が全然違うけどね」  その答えに、彼女は僕に詰め寄り、彼女と僕の距離は更に縮まった。 「へー!どんなところが好きなの?」  嬉しそうに彼女が僕に尋ねるが、彼女が近すぎて僕の頭はゆだり、思考が非常にゆっくりでしか行えなくなっていた。 「最初名前見て、何てカッコイイんだ!と思って調べたんだ。そしたら、思ったよりも地味でね、薔薇なのにこれ!?そう思ったら親近感が沸いて来たからかな」 「ふーん。なるほどー」  彼女は嬉しそうに、僕から少し離れた。僕が花が好きと知って、少し喜んでいるように見えた。 「私は私は晒菜升麻(サラシナショウマ)が好きかな。ちょっと独特の形なんだけどね。それがまた珍しくて、それでいて綺麗なの。白い花が好きなのは一緒だね」  にっこりと笑う彼女に、僕は頷くことしか出来なかった。  僕は彼女の何が好きなのかやっとわかった。花と関わっている時の、彼女の笑顔が好きだったんだ。
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