花が好きな君だから

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 電車を降りてバスに乗り、昼頃になってようやく目的地に着いた。  チューリップは色を利用してアートが作られていて、アジサイはこれでもかとボリューム溢れて綺麗に咲いている。  その他の花も見事で、見る場所には困りそうに無さそうだ。奥に見える風車が、また花と合わさってのどかな雰囲気を作っていた。  僕は花畑牧場と言う物を生まれて始めて見た。彼女が花が好きな理由を僕は少しだけ理解出来た。  ただ植えられているだけで無く、区域わけし、模様を作り、色々な物を利用しての花畑は、芸術と読んで良いだけの出来だと僕は思った。  ふと、静かな彼女に違和感を覚え、横を見てみる。そこにはキラキラとした瞳で、今にも端って行きそうな彼女がいた。  そして、予想通りそのまま走って行こうとしていた。 「待って!お金!入場料払ってない!」  ゲートを越えようとする彼女の手を掴み、僕は呼び止める。彼女ははっと我に返り、赤面しあんがら慌てて財布を取り出した。  止める時に握った手の柔らかさが、僕の手に残っているようだった。  ただ、その感覚を確かめる暇は僕には無かった。  ゲートを潜った瞬間に、彼女は僕の手を握り引っ張った。  マップを見ながら、行きたい場所を僕を引っ張り歩き回る彼女。大人しい子だと思っていたが、思ったよりも活発で、体力もあることがわかった。  毎日花壇の世話をしているが、それは思ったよりも重労働なんじゃないかと僕は考えた。  彼女と手を握り、彼女の言うままに歩き、花を一緒に見て、そして遅めの昼食を取る。  一緒に居て楽しいと思えたのはここまでだった。その後のことはほとんど覚えていない。  彼女の体力は無尽蔵で、引っ張られて着いていくだけで僕は限界だった。花を見る余裕も無かった。  僕が意識を戻し、気づいたのはバスに乗った後だった。
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