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「ふー。楽しかったー」
微笑みながらの何気ない彼女の呟き。その笑顔はスミレのような、明るくすっきりとした顔だった。
僕はまた一つ、彼女お新しい顔を知ることが出来た。
明日は間違いなく筋肉痛だが、十分な対価だと、僕はそう決めた。
「あなたには、何か夢ってある?」
彼女は急に真剣な表情になり、僕に尋ねてきた。
僕は首を横に振る。そこそこの大学を出て、そこそこの企業に就職出来たら良いな。その程度しか考えていなかった。
彼女は、そんな僕と違い夢があるらしく、それをゆっくりと語りだした。
彼女は花屋になりたいらしい。それも今以上に花が見てもらえる花屋に。
今花の需要は減っていて、買う人は下がる一方だ。だからこそ、大切な時に、大切な人に、花を贈ってあげて欲しい。
花屋に並ぶ花というのは皆選ばれたえりすぐりの花だけ。選ばれなかった花も沢山ある。
本当は選ばれない花も皆に見て欲しい。でもそれは難しい。
だったら、選ばれ花屋に並んだ花は皆に見て欲しい。そうしないと選ばれなかった花はもっと惨めだ。
もっと、皆に花の美しさと楽しさを知ってほしい。
彼女は、真剣に、そして心の底から花のことを考えていた。
僕は彼女が好きなだけでは無い。花のことを考えている彼女が好きだった。
この日を境に、僕は彼女と二人で会うことは無くなった。メールの付き合いだけになり、僕は本気で勉強に取り組んだ。
やりたいことが出来た。不純だけど、それでも真剣だった。
まず親を説得した。大学もそれ用の物を選んだ。親は反対し続けたが、出来なかったら祖父の家を継ぐことを条件に受け入れてもらった。
次に、祖父。僕のおじいちゃんを説得した。広い畑を持っている祖父。同じような方向だしおじいちゃんは反対せず大学の費用を出してくれた。
結局家族は誰一人僕を信じていない。ただ、畑を継ぐなら丁度良いと言う事で許してもらっただけだった。
僕は大学の農学部に入った。
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