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 信じられない光景だった。最初の隕石が地表に達した瞬間、光の膜のようなものが惑星ごと地表を覆ったのだ。まさに一瞬の出来事だった。しかも続いて飛来した無数の隕石は、凄まじい勢いで次々とその光の膜にぶちあたって消滅、あるいは弾かれてゆく。幻想的でさえあり、一度は死を覚悟した私には既にあの世でこれを見ているのではないかとさえ思えた。  だが救われた訳ではなかった。次の瞬間、唐突に大地がまっぷたつに割れた。もう最期だと思ったが、それは地表ではなく地面の下で起こっていた。半透明と化した地表の下に透けて見え、さらにそれがまたスッと二つに割れた。そしてそれは頭上で隕石群が弾かれ続けている間もどんどん繰り返されていた。眼も自分の正気も疑った。だが、これは。  卵割だ───と、直感した。なんという素晴らしい光景だ。  ああ、そうだったのか。たったひとつの卵子に群がる無数の精子。しかし最初に到達したひとつのみが勝者であり、卵子と結合して生命となってこの世に生まれ出る権利を得られる、あの鉄則。  もうヘッドホンからはノイズしか聴こえない。カウントダウンに興じていた同僚たちは背後の基地もろとも、とうに消滅したようだ。ほどなく私も“光の卵膜”の中で異物として消去されてしまうだろう。  火星サイズの卵子から何が生まれてくるのかを見届けられないのは残念だが、科学者として生命と引き換えにするだけの値打ちはあった。  この通信が無事に他の基地にキャッチされるのを祈る。     
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