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しばらくの無言からヴァスティに話しかけられたゲリトは声を出さずにうなずいた。この頃にはもうゲリトは身体が冷えすぎて口を開いたら歯がガタガタ鳴りそうだった。
「なんだもしかしてお前怖いのか?」
その様子を面白がるようにからかうヴァスティ。
もちろんゲリトが怖がっているのではなくただ寒がっていると知っていた。
実は意地を張るゲリトの身体が冷えきらないようにとヴァスティはさりげなく
その背にもたれ掛かって座っていたのだが、そんなこととは露程にも思わないゲリトは今にも鳴りだしそうな歯を気合いで止めようと試みた。
「馬鹿言えよ。ちょっと寒いだけだ。…もしかして霧でよく見えないだけかな」
そう言うとゲリトは少し首を伸ばして何か変わったところはないかと目を凝らした。池には朝靄が立ちこめはじめ視界はどんどん不透明になっていく。
ヴァスティも真っ白な池を注意深く観察するがやはり水草一本さえ動く様子もない。
「やっかいな霧だな。なんだってこんなにジメジメしなきゃならないんだ」
「さあね。」
朝霧は二人の視界を阻むだけでなく冷たい湿気をはらんでいた。
このままではゲリトは風邪を引いてしまうだろう。
ヴァスティが泣く泣く諦めて帰ろうと言おうとした瞬間ゲリトがびくっとして山の方向に目を凝らした。
「なあ、あれ…」
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