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ゲリトはこんなに美しい人を生まれて一度も見た事がなかった。二人がすっかりくぎづけになっていると少女はゆっくりとこちらへ歩きはじめた様に見えたがゲリトがほんの一瞬瞬きをするとすでに二人の目の前までやって来ていた。
「ロキを見た?」
少女は唐突に口を開くと少しハスキーな声で二人に尋ねた。
慌てた二人は示し合わせたように同時に勢いよく立ち上がるとお互いに口をぱくぱくさせ大いに混乱した。
目は少女を見つめたまま二人は無言でもみ合うと耳の先まで真っ赤になったヴァスティがゲリトを少女の目前に押し出した。
「はっ!?…え、見てませ、ロ、ロキって?」
「私の夫。移り気でとても綺麗な人。」
ヴァスティとは逆に真っ青になったゲリトが声を裏返らせながら尋ね返すと少女は淡々と答えた。
彼女は”静”という言葉がまさにぴったりな様子だが二人の方は彼女の言葉にみっともないほどうろたえていた。
「お、おっと?…」
「見ていないのね。…ありがとう。」
微笑む事もなく囁くように話し終えると少女はくるりと二人に背をむけた。
しかし彼女が歩きだしほんの数歩でその生成りのベールのような長いマントの裾と靄の境がよくわからなくなると急に我に帰ったヴァスティが少女を呼び止めた。
「き、君名前は!?」
振り返った少女はゆっくりこちらへ歩を向けたと思うとまた二人が瞬きをした間に元の二人の目前の位置に戻っていた。ゲリトは瞬間移動したようにしか見えない少女に目を瞬かせた。
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