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本当は回数だけ数えていたゲリトは内容なんてろくすっぽ聞いてはいなかったがヴァスティはまんまとその言葉に誤摩化されると21回目のキスの話を始めた。ゲリトはまた適当なタイミングで相づちを打ちながら広間の様子を眺めていたが急に大人達が慌ただしく行き交いはじめたので相づちをやめた。周りの様子に気づいたヴァスティも話をやめると不思議そうな顔をした。
「どうしたんだ。慌ただしいな」
「さあ、今日は別に集会も宴会もないはずだよ」
慌てた様子の大人達を二人が観察しているとよく知っている人物が二人の前を通りかかった。
「父さん!」
「ああ。ゲリト。」
ゲリトの父は役所の役人であると同時に村の寄り合いの議長も兼任している。村で何があったのかを聞くには最適な人物だ。
「何かあったの?」
「いや、私にもまだ詳しい事は。大池の事だろうとは思うんだが。休日に悪いが今日は早く家へ帰りなさい。聞きたければ後で話して聞かせてやろう。」
緊張感の漂う父の様子にゲリトが素直に引き下がろうとすると父親からは死角のところでヴァスティがゲリトの背中の裾を引っ張った。
ヴァスティの言いたいことがわかったゲリトは人にはわからないほど小さなため息をつくと素早く父親を呼び止めた。
「父さん!今日もヴァスティをうちに泊めてもいい?」
「ああ、もちろんだ。それではな。」
あっさりとヴァスティの滞在を許可するとゲリトの父は早足で広間の奥へと去っていった。
残された二人は顔を見合わすとヴァスティは嬉しそうな、ゲリトはすこし呆れたような表情を互いに浮かべていた。
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