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カチャカチャと音がして、今日の分のご飯が差し出される。
家主さんだ。
ボク達をここに閉じこめる代わりに、生きる上で必要なこと全ての世話を焼いてくれている。
生まれたときからそうだった。
だから、ボク達はこの部屋の外に何があるのか知らない。そもそも、知ろうと思ったこともない。
ボクは与えられたご飯をぱくぱくと頬張った。
美味しいかどうかは、良く分からない。
これしか食べたことがないから。
兄弟も口をぱくぱくと動かして空腹を見たそうとしているけれど、ここまで来ることが出来なかった。
横たわったまま身体をばたつかせている。
それは、体力を消耗しているだけのように見えた。
ボクが兄弟の元までご飯を運んで上げると、嬉しそうにそれを口に含んだ。
「ありがとう」
兄弟はいつものように優しい笑顔を向ける。
けれど、それは日増しに衰えていた。
食べる量も減っていた。最近はずいぶん残すようになった。
「気にするなよ」
ボクは何でもないと言うように笑って見せた。
今まで長い間続いてきた平穏が、これからも続くのだと信じたかったんだ。
そんな様子を、家主さんはいつもの様に壁の向こうから覗いていた。
家主さんも、元気のない兄弟を心配しているようだった。
食事を取り終わると、彼女はようやくボクたちの部屋から離れていく。
毎日そんな感じだ。
日が昇ると家主さんの家族が、代わる代わる部屋の中を覗き込んでくる。
指でトントンと壁を叩いて、ボクたちの様子を伺う。
ボクたちはすっかり日常になったその光景に驚くことなく、気楽に遊んだ。
小さな部屋の中を走り回って追いかけっこをしたり、どっちが高くジャンプ出来るか競争したり。
滑らかな壁に姿を映して踊ったり。
兄弟が元気だった頃は、そうして遊んでいた。
毎日が楽しかった。
今は、毎日兄弟の心配をしている。
いつになったら、前のように元気になってくれるんだろう。
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