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「うちは何でか、ちょっと暗示かけるだけで、あれどすのやわ。うちには時々、クレオパトラも仁徳天皇さんもお出ましになりますの。『わしはタイロン・パワーの生まれ変わりや』とか、『私は前世は小野小町やった』ちゅうような物すごいのも、たまにおいやすのや。ま、あんさんには録音、お聞かせいたしまひょ。お次の方はまだみたいやし」
回り始めたテープから、「そこはどこどす」と先生のお声があたりまえに聞えて、ややあって、「静かで、ございます」と答えた私の声は少しくぐもっておりました。でもまぎれもなく私の声で、京言葉のままでございました。
「もっと前に戻ります。戻ります・・・戻りました。さあ、あんさん、今、どこにいはります」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あんさん、女のお方どすか」
「・・・はい」
「そこはどこどす」
「・・・部屋」
「部屋て。そこは、どこの国でございますのや」
「・・・・・・・・・・・・・」
「今は何年の何月どす」
「・・・・今は、夏です」
「あんさん、今、何しといやすのや」
「わたしは・・・・・お湯に・・・」
「お風呂どすか。ほかには誰かおいやすか」
「・・・湯女が、体に、なつめ油を擦り込んで・・・爪には紅を、目には墨を・・・髪を、高く結い上げてくれております・・・わたしは、耳に、緑の石を絹糸でさげております・・・・腕にも胸にも、きれいな宝石・・・足首にも」
「あんさんのお名前は」
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