YESTERDAY

10/16
前へ
/591ページ
次へ
「うちは何でか、ちょっと暗示かけるだけで、あれどすのやわ。うちには時々、クレオパトラも仁徳天皇さんもお出ましになりますの。『わしはタイロン・パワーの生まれ変わりや』とか、『私は前世は小野小町やった』ちゅうような物すごいのも、たまにおいやすのや。ま、あんさんには録音、お聞かせいたしまひょ。お次の方はまだみたいやし」  回り始めたテープから、「そこはどこどす」と先生のお声があたりまえに聞えて、ややあって、「静かで、ございます」と答えた私の声は少しくぐもっておりました。でもまぎれもなく私の声で、京言葉のままでございました。 「もっと前に戻ります。戻ります・・・戻りました。さあ、あんさん、今、どこにいはります」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「あんさん、女のお方どすか」 「・・・はい」 「そこはどこどす」 「・・・部屋」 「部屋て。そこは、どこの国でございますのや」 「・・・・・・・・・・・・・」 「今は何年の何月どす」 「・・・・今は、夏です」 「あんさん、今、何しといやすのや」 「わたしは・・・・・お湯に・・・」 「お風呂どすか。ほかには誰かおいやすか」 「・・・湯女が、体に、なつめ油を擦り込んで・・・爪には紅を、目には墨を・・・髪を、高く結い上げてくれております・・・わたしは、耳に、緑の石を絹糸でさげております・・・・腕にも胸にも、きれいな宝石・・・足首にも」 「あんさんのお名前は」     
/591ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加