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某小路さまや小百合からなる一派は、羨ましいほど上等の小物と服で出来上がっていて、私は彼女達に混じっていると、いつもどこか場違いな、走って逃げ出したくなるような気がしておりました。私は、着る物、身につける物は人格よりもはるかに尊重するたちでございますのに、細かい両親は、「着物は嫁入り道具になる」と、いくらでも拵えてくれる癖に、通学用の服にはなかなかに皺かったからでございます。かと言って着物で通学するわけにもまいりませず、あれこれ工夫するしかなくて、柳こうりから引きずり出したナフタリン臭い男物のカーディガンやごわごわのパッチを丹念に解いて、やかんの湯気で伸ばした枷にお小遣いで買い足したモヘアをからめて編みなおしたり、岸恵子が着ていたような母の古いコートをつぶしてベストとスカートを縫ったり、衣装もちの真理子姉に貰った少女趣味のワンピースの丸襟をはずしたり、兄のお下がりのセーターにごってりとビー
ズ刺繍をしたりと、試験の前でも机よりミシンに向いている時間の方が多かったものでございました。だから、金持ちとしか結婚はすまい、と堅く決心しておりました。
余談ながらちょっと恥ずかしながら、小百合にはえらい迷惑ながら、
「中島さんと岡本さんて、身体つきとか雰囲気がどこか似てる」とよく下級生に言われることがございまして、「着てるものとか、顔の迫力は全然ちがうけど」と口にはしない条件付のお世辞でも、私は天にも上る心地がしたものでございました。
さて、未来の夫、藤田徹に会いましたのは一年生の秋、いとこの真也の学園祭でございました。真也の剣道部と、私の女子大との合同コンパで、にぎやかに自己紹介を交わしながら、ふと学生会館の大階段を見上げた時、背の高い男の子と目が逢いました。あ、この人と結婚する、と直感いたしました。彼は階段を二段飛びで駆け下りて来て、真也に「先輩」と話し掛けました。ボーイ・ミーツ・ガールの記念すべきシーンには、模擬店の鉄板でじゃあじゃあ音たてている焼きソバの匂いが流れておりました。
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