SHE LOVES YOU

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ディスコなぞなかった時代なので、どこの大学もそれぞれのクラブは、部費稼ぎのダンスパーティーをしょっちゅう催しておりまして、阪神間の大学のダンパには、クラスメート、町内会総出でよく通いました。 「おい藤田、剣道部主催のダンパだけは、けっちんせんと参加せえ。俺のいとこはダンスにかけては気狂いやぞ」 「先輩、俺はダンスなんか嫌いやもん」 この愛想なしに引き換え、孝太郎と真也はツイスト、モンキー、ゴーゴーは申すに及ばず、タンゴもチャチャもマンボでもルンバでも、フォックス・トロットでもジルバでも、河内音頭でも、おお、何でも来いでございます。こいつらは子供の時から、遊ぶことは何でも器用でございましたし、綿倉さんも山村さんも、私の兄もダンスはプロみたいに上手い。 ついでながら、戦後大賑わいした新京極のダンスホールに、向かいの米屋、酒屋、傘屋、仏具屋、乾物屋、町内会の若旦那総勢で、夜な夜な連れもって通い詰めておりましたから、私たちの父親連中もダンスはまことに上手でございます。私たちが子供のころは時任の乾物屋の倉庫だの、傘屋の店を片付けた広い板の間などで、祇園祭や地蔵盆の夜など、馴染みの芸者連まで参集しては、ぜいぜい言う蓄音機のレコードで、賑やかに踊っていたものでございました。おのれの女房と踊ることは滅多にございませんでしたが。 「なあ、小百合さん、うちのがっこも、ダンス同好会の一つもこしらえよや」     
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