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小百合は、この山の上大学バスケット部キャプテンの大原くん連れ、傘屋の孝太郎もガールフレンド連れで、いとこの真也は私の兄から、「しっかり由美子の守りせえよ」と言い渡されているくせに、私の事は抛ったらかして、同級の山本麗子さんとばかり踊っておりました。真也はいとこの贔屓目ながらもすらあと格好の良い、連れて歩くにも、組んで踊るにも中々に見栄えのいい奴なのに、女の好みは最低で、麗子さんはお名前は美しいけれど、えらいチビのブス。聞いたこともないような地方都市の出身で、大学の近くの卓球場の二階に下宿していました。真也は一年生のスペイン語のテストの時に、たまたま隣の席にいた麗子に消しゴムを借りたのが成り染めだということでございました。私は麗子がどうにも嫌いで、まあ、それはようございます。
乾物屋の美佐子は、「お母ちゃんが大丸さんで張り込んでくれた」ピンクのワンピースが、地味な顔立ちを中々に明るく引き立ててはおりましたが、彼女は百七十センチ六十キロの、当時としては超大型女で、体型的に唯一頼みの綱の孝太郎は、あでやかな中島小百合とは中々に息が会ういい間柄ゆえ、何曲もぶっ通しで踊っているのをにこにこ見つめて、大人しく壁の花に甘んじておりましたが、美佐子の隣の椅子で、私はうずうずと踊りたくて、何かしらもどかしくて、その思いが何か分からなくて一層焦れて、殺風景な体育館のぼろかくしにやたらと点滅するライト、天井からぶら下げた金モールの先のチリ紙の花、学生バンドの演奏のみすぼらしい会場が青春の宇宙そのものになって、人いきれとエレキギターの中で、決まったダンス・パートナーのいない人生の侘しさを切なく噛み締めておりましたら、思いがけず、ここまで格好良くなくても一向差し支えない大原くんに誘われ
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